特別コラム
〜詩に込められた思い〜

サザンオールスターズの三ヶ月連続新曲配信リリースが大きな話題を集めるなか、「盆ギリ恋歌」、「歌えニッポンの空」に続きラストを飾るのは、「Relay～杜の詩」である。

これまでは、桑田佳祐の故郷・茅ヶ崎にまつわるところがあったが、今回は、彼の“第二の故郷”が舞台となる。デビュー以来、音楽制作の拠点としてきた千駄ヶ谷のビクター・スタジオや、隣接する神宮の杜への想いを綴った作品である。しかしこの地域といえば、大規模再開発が計画され、様々な意見が交わされる日々が続いている。

「３月に坂本龍一さんが亡くなられて、テレビの特集などを通じ、あの方が仰っていたこと、想っていたことを改めて知ったんですよ。しかもそれは、自分の感覚と照らし合わせても何かしら響くものがあった。そもそも自分は、ビクター・スタジオに育てられた人間で、この界隈といえば、レコーディングの合間に散歩したりする大切な場所ですからね。再開発が社会問題かどうかという以前に、身近な話題でもあったわけなんです」

確かに桑田にとって、身近というか、レコーディングも佳境となれば“居住”するのがこのスタジオだ。サザンオールスターズの楽曲制作時などは、ちょいとジョギングに出掛ける彼をスタジオの人間が「いってらっしゃい」と送り出し、戻れば「お帰りなさい」と、まるで自分達の家であるかのように過ごし、活動の一つの拠点としていた。
ただ、たとえ想いはあったとしても、作品に反映するとなると違ってくる。何かを声高に叫べばいいというわけではない。そこで、改めて「Relay～杜の詩」という楽曲タイトルが大切になっていく。

「そもそも風致地区といわれた神宮の杜なのに、いつの間にかその条例が変わっていて、それまでは建物の高さも１５メートル以内という規制が、１８０何メートルものビルが計画可能なまでに緩和されていた。しかも地下４０メートルまで掘られる想定で、ゆくゆく工事が始まっていく…。我々は遅ればせながらそのことに気づいたわけで、事前にもう少し話し合うことができなかったのかな、という想いを抱えることとなったんです」

頭ごなしに反対しようというわけではない。この問題を知った桑田は、自分なりに情報を収集したという。今回の再開発には、いろんな側面での事情があることも、この土地の所有者をはじめ、街を良くしようとする人達が沢山いるのも分かる。ただ…。

「森が伐採されたりすることなどへの違和感を、多くの人間が持っているのは事実だと思うし、だったら“失うもの”はこれだけで、“得るもの”はこれだけといったことなどを、穏やかにコミュニケーション出来ればいい。もちろん、世の中にはこの再開発の件に限らず、似たようなことが日本中、あるいは世界でいっぱい起きていると思うんです。この曲で何か、我々のみならず、若い世代も考えるきっかけになればと。そういうことを音楽で継ないでリレーしていくのが私に出来ることだと思い、歌にしました。」

深い響きのピアノから始まるこの作品は、次第にゴスペルの要素を強めていき、人々の想いをまとめ、運んでいく。後半では、桑田が“C’mom baby now”と、みんなに歌うよう呼びかけるところもある。この曲調、音楽スタイルそのものが、歌詞のテーマとも合致する。

メロディには教会旋法のような祈りの成分が含まれている。胸に染みると同時に突き動かされる。
桑田が取材で発言していたことが、平易な言葉でそのまま綴られた歌だ。
ポップ・ソングを作り、届ける立場としての、基本のひとつに立ち返った作品なのだろう。その基本とはつまり…、「時代」を映す、ということなのだ。